ロゴ入りのシャツで/佳代子
 

女と出会ったことがない
こんなに生きているのに
私まだ女に出会ったことがない
履歴は白紙のままで
底知れぬ充足を感じるように
女だぁと我が身を抱きしめたこともない
子の母であり
妻であり
忙殺され躓いて
その前に人であることを思いだす
大人であったことが新鮮に感じる
ロゴ入りの黒いリュックに生活を詰め込んで
繁華街を歩けば
幼さの紋章だけが一人歩きをする
穴の開いた心なら限りなく落ちている街で
ティッシュペーパーを配る人
裏が透けてるうまい話を持ちかける人
山積みのリスクに呼吸困難を訴える人
原色を反抗的に組み合わせて身に纏う少女達
モノクロに追従してささやかな呼吸をしている私には
真夏の太陽が起爆剤になってハレーションをおこす
街が眩しい
街が苦しい
いつの頃からこんなに大変になったのだろう
街と生活が分離している
人の間が人間なら街と生活の間に
在籍させてはもらえないものか
一人の女として

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