月の匂い/草野春心
 


  君について何を知っているだろう?
  そう思ってぞっとするときがある



  僕について何を知っているだろう?
  生きているだけでは物足りないこともある



  たとえば君の右目と左目が入れ替わっても
  僕は一生気づかないかもしれないな



  月の匂いを嗅いだことが無い僕たち
  月の灯りにつつまれて確かめ合う



  存在することのうすら寒さが
  不気味な厚みをもって僕たちを襲う



  生きているだけでは物足りないなら
  僕の目に映る君をなぞってみて



  互いの孤独を貪るように愛せたら
  僕たちは……いつか月の匂いに気づく


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