手紙/「ま」の字
ふと足もとの水をすくって飲んだ
すでに海ではなかった
膨大な真水だった
思わず夕暮れの大気中に立ちあがり
凝然とした
「おれは・・・
居間に戻っても
前腕の血管には静寂の崖が透け
踵には執拗に夕光がかがやいていた
しかたなく
浜辺が経た年を量えたはじめたが
とうに億をも過ぎてしまい
道理でくるぶしをよぎってゆくこの水が
激しく床を奔っているわけだ
・・・・・・・・・・
遠い海上に
いくつも
ばら色に崩れゆく
巻雲
ついに返信は出さぬまま
メールももう来ない
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