『水槽』/東雲 李葉
 
人工的な酸素で生きる
擬態 岩石 時には呼吸を止めてでも
揺らめく水草 漂う生命
光合成も食物連鎖も青い水で営まれている
弱った体をついばむ口々
硝子越しに指差す空々しさ
群がる 群がる 人も魚も
固めた飼料じゃ物足りない
赤い臭いを口にしたい


もしかしたら僕らは
誰かに飼われた魚じゃないか
薄い硝子を隔てた向こうに
好奇の両目が浮いていないか


人工的な世界で生きる
腐敗 眼帯 迷い込んだ摩天楼
骨が見えても 漂う生命
優勝劣敗 弱肉強食 言わずもがなこの世の理
小さな魚が喰らい付くと
次々集まる小さな体
大きな口が近付くと
散り散りばらばら小さな魚
誰かに似ている 何かに似ている
ああ僕も
赤い臭いを口にしたい


もしかしたら僕らは
誰かに飼われた魚じゃないか
色を持たない檻に囚われ
自由のつもりで生きていないか


それは「地上の縮尺図」だと
理科の教科書には示されていた
ああなるほど僕らは
地球に飼われた魚なんだ
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