姉/小原あき
 
姉は鏡を持って出てきた
お母さんは?
と聞くと
買い物に行った
と言った

彼女は看護士をやっていて
だから、医者とは絶対に結婚しないそうだ
まだ、結婚に可能性のある姉が
希望をひとつ
手にしたはずのわたしには
懐かしくもあり
羨ましくもあった

夜勤明けなんだ
と言う姉は
右手に鏡を持ったまま
玄関に立っていた
客がわたしだと気付いていたのだろうか
身なりを気にせず
眉毛が半分無くなった顔をしていた

たぶん、これから
どこかへ出かけるのだろう
彼女の持っていた鏡の中に
きちんと眉毛の書いてある
よそ行きの姉の顔があった

その顔は知らない
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