始発を見に行ったときの話/吉田ぐんじょう
 

早朝
周囲があまり静かなので
ちゃんと他の人が生きているかどうか
確かめるために
始発の電車を見に行く

路上に
昨晩お酒をのみすぎた人が
うつ伏せに倒れている
マネキンみたいだ
つつくと硬く冷えている
上に乗ると
みゅうと言いながら
大量の水を吐き出した
何でそんなにのむんだろう
夢ばかり見ているせいだろうか
苦しそうなので首を取ってあげた
根元から意外と簡単に取れた

静かに音楽が流れている
音の出所を探ってみると
大きく開いた花の中で
おしべとめしべがこすれあって音を立てていた

ああそうかと思う
営みということについて思いを馳せる

それで
始発はちゃんと動いていた
四角い空間に黒い服の人たちをたくさん乗せて
お葬式みたいに敬虔に走っていた

帰るときには完全に陽が出ていて
化粧をしていない素肌に
夏になりかけた陽の光が痛かった

音楽はやんでいた
首を取った酔っ払いの人は
ごみ捨て場にだらんと横たえられてた

たったそれだけのお話

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