海の伝言/たもつ
 
 
初夏の光
ひとつ前の駅で降ります
虫かごもないのに


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栞はかつて
誰かの魚でした
本の中で溺れるまでは


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夕日のあたたかいところに
古いネジが落ちています
いつか機械からはぐれて


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六月の日よけに懐かしい
あなたの手が触れていました
ひとつのことのように


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草行きのバスに乗ります
生きている魚にも
瞼をつけてあげたかった 


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掌に残る水温の痕
大きな船で発ちます
音にもなれずに


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ゆっくりと通過していくのは
海の内緒話でしょうか
柔らかな雲のお墓へと



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