ひとつ いのり/木立 悟
 




幾度も夜に月を着なおし
言葉を交わす別れも無く
樹と曇と星の重なり
灯火ではない明かりへ歩む


海辺の突堤に
子が腰かけ何かをつぶやく
聞き取れないまま
子の姿はかがやいてゆく


氷の稜線
暗がりの鉱
明るさをふちどる明るさの
かすかなふるえ かすかなこがね


こぼれぬように
光が光をおさえている
見あげる手のひらの群れのひとつに
光はこぼれおちてゆく


夜の鍵盤
伝う飛沫
河口の唱
かすかな かすかな鈍


ねむり つめたさ
かわき とまどい
音のまぶた めざめ
音のまぶた まよい


木は無く 木の影だけが
石の壁からあふれ出ている
生きたいと願うものたちが
夜の夜を呑みつづけている


ひとつの風が丘の上から
数百年後の風を見ている
傷に浮かんでは消える唱
光をこぼす手のひらを見ている













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