桜桃忌に捕まえて/木屋 亞万
 
桜桃を美味いという人の気が知れない
身が小さい割には種が大きいし
小振りなスモモの甘さしかない
驚くほどに痛みやすくてすぐ腐る

果物屋で売り物にならなくなって
処分に困っていた変色した桜桃を
安く譲ってもらえばよかったのだが
僕は店主の目を盗んでかっぱらった

路地の細長い暗闇の中でいくつも
いくつも頬張っては種を吐き捨てた
今ごろ親父は明るい所で桜桃を食って
酒を浴びるように飲んでいるんだ

親父の目の前に盛られた果物から
何一つ家に持ち帰ることなく
すべてをまずそうに食べ尽くしていく
酔って味などわからないくせに
眉をしかめて気取っているのだ

誰か
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