雨に塗れる/松本 卓也
狂えてしまえれば
逃れられるだろうに
面影の無い残骸は
夢の端々に散らばり
短く浅い夢の中でさえ
仕事をしている姿がある
何度問い続けただろう
幾年振り返り続けたろう
半年後に迎える三十路を前に
何一つ備える事が出来なかった
人生を呪うしか術も無い
臆病と惰性と憤怒とを
飯の種に等価交換するため
噛み砕き咀嚼して吐き出し
飲み込んでは排泄を繰り返す
やがて街路樹の果実が朽ちて
銀杏独特の異臭を放つが如く
無価値なまま積み上げては崩れる
誰かの心に引っかかりたいと願いながら
どうせ、を言い訳に心を閉じる作業
慣れつくしてしまった表情には
卑しい笑顔しか張り付いていない
意識の虚無だけが恐怖の根源だから
明日の飯と温かい布団の補償を求め
クレームとメンテと繕い笑いを処理しつつ
現実から離れられない弱さこそを呪う
梅雨空が零す涙を無造作に浴びようか
毛穴と言う毛穴から溢れる汗を誤魔化すには
これくらいの天気が丁度良いのだから
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