120階の屋上から150階の空室の窓に荒縄を結んで気が狂った男が綱渡りをしている/ホロウ・シカエルボク
気が狂った男はまるでただの地面を歩くように構えることが無かった
自分がどこを歩いているのかさえ知っているかどうか疑問だった
男は年代物のラバーソウルを履いていた
そんなこと別にここで語ることじゃないけれど
120階と150階のあいだに張られた綱の上では地上の喧騒はわずかにも聞こえなかった
そのかわり何か種類の違う根本的な騒がしさとでもいうものがそこにはあった
いまにして思えばそれは静寂に過ぎる静寂であったのだろうと
後付けみたいに納得するしか地上の者には理解の仕様が無い
種類の違う根本的な騒がしさとでもいうものがそこにはあった
120階の屋上から150階の空室の窓に荒縄を結んで
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