守れなかったひと/恋月 ぴの
自ら築いた家庭を守る
そんな当たり前の事ができなかったのだと
あのひとは言った
幸せそうな笑顔の傍らをすり抜けるとき
言い知れぬ悪寒を覚えるのだと
あのひとは呻いた
家族のために自分を棄てられなかったのは
血脈の仕業で
我が子を思う親としての生き方なんて
どだい無理な話だったんだと
あのひとは言った
たとえそれが単なる言い訳であったとしても
断ち切れてしまった家族の絆は
元に戻る事など有り得るはずも無く
ふうらり浮き草家業は気楽なものさと
血走る足音に踏みつけられた一枚の馬券へ
手を伸ばそうとした刹那
拭っても拭いきれない手のひらの汚れに気づき
特別でもなんでもない
どこにでも転がっていそうな人生だのにと
あのひとは呟いた
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