村長/吉田ぐんじょう
 
んぱんに入っていると

そのせいかどうか知らないが
新しい村長はその年の暮れに退任した
最後の挨拶をした新しい村長のスーツには
一面にりんぷんのような粉っぽいものが付着していて
噂はあながち間違いじゃなかったのかもしれない
すれ違うとき青臭いにおいがした

その次の村長は決まらなかったので
とりあえず前の村長の遺影を持ってきて
当分の間それで間に合わせることになった

夏になると前の村長の遺影の前には
蝉の抜け殻がそなえられる
前の村長が乗っていた自転車は
子供たちが
はじめて自転車の練習をするときに使うようになったので
パステルカラーに塗り替えられ
補助輪も付けられた

なんとなく平和な気もするけれど 少し怖い

新しい村長はいま何をしているだろう
案外どこかの昆虫館とかの館長になって
美しい標本をつくることに
精を出しているのかも知れない

誘蛾灯に蛾がぶつかって
ヂッ
といっているのが聞こえる

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