『成虫』/東雲 李葉
曖昧で。
大人は何も教えてくれない。
灰が巡る血の管は乾ききらずに僕を生かす。
黒い雲が晴れた頃。
償い忘れ孔雀羽を広げる人々。
知らん顔で見上げた空は、
絵の具を絞って広げた色。
酸化していく町並みも、
溶けていった有機物も、
忘れられてく。消されていく。
青を知った幼虫たちは、
光に群がる成虫から美しい繭を与えられる。
黒を知らない蛹たちは、
広く明るい繭でさえ眠りにつけない。
久々黒い朝が来る。
傘に穴開け視界を広げる。
不思議な顔で僕を見つめ、
指を指して笑う蛾たち。
切り取られた学校も、
抉り取られた心臓も、
誰も知らない。見たがらない。
蝶がここから消えていく。
時代と言えばそれまでだけど。
幸せなのか不幸せなのか。
薄まる命の尊さが悲しくて仕方ない。
戻る 編 削 Point(2)