『成虫』/東雲 李葉
 
黒い雨が止まない。
傘は穴開き視界はバラバラ。
不思議な顔で天を見つめ、
非日常を飲みこむ眼。
酸化していく町並みも、
溶けていった有機物も、
憶えておかねば。消えてしまう。


青を知らぬ幼虫たちは、
素足で瓦礫によじ登り暗い空を見上げている。
飛翔を願う蛹たちは、
青い空を夢見たまま静かに眠りについていく。


黒いけれど朝は来る。
屋根は吹き抜け視界は良好。
分かった顔で空を見たけど、
僕らの罪が分からない。
切り取られた学校も、
抉り取られた心臓も、
何も知らない。見たくない。


トンボの羽を地図に見立てた。
いつの時代も知ってる色は曖昧
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