あと何本/佐々宝砂
 
ゆら、と、
闇の中で黒が動く気配、
みどりの光点がふたつ、
ケヤキの根元にうずくまる。

杖はニワトコの枝、
髪に飾るのはキツネノテブクロ、
はだかの胸に塗りたくる胎児の脂肪、
そんなもので飛べると信じていた、
そんな牧歌的な人々の仲間ではない、

三重に偉大なヘルメスの教えを盗み、
黒山羊の尻に接吻し、
ワルプルギスの夜に舞い狂う、
そんなことはやっていない、
そんなことは夢見たことさえない、

それでもあれは、
伝承通りに黒い猫の姿をして、
軽やかに闇を行く、
その尻におどる長いものは、
あと何本増えるか。
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