ポスティング業務のこと/吉田ぐんじょう
がさがさに雑草の生えた庭や
ひびわれた階段なんかに
お菓子みたいな色合いの
子供用自転車や砂場セットが置いてあり
戸数の数だけある
台所の硝子窓からは
しきたりのように
ハンドソープや洗剤が
背を向けて並んでいるのが見えた
静かで何の音もしなくて
誰もいないからかえって
人の気配が濃厚で
すべてのチラシをポストに入れ終えて
荒い息で空を仰いだ
風ばっかりが
透明な子供みたいに
足元でくるくる遊び回る
遠くで上司が呼んでいた
それから間もなく
わたしは会社を辞めた
最後の日
お世話になりました
と頭を下げたけど
電話が鳴るばっ
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