バカげた空間/ムラコシゴウ
 


川の向こう側から見る僕の街はこんなにも虚ろだったか


長雨を全て天に突き返すかのような強圧的な陽炎に揺られ
幾万もの人間の疲労と鬱屈がうごめいてやがる


ゆく川の流れは絶えずして云々 と先人はのたまったが
目の前の淀みに浮ぶ泡沫は
ペットボトルと物欲の残骸をたたえながら
さっきから僕の視界の中にクポクポと居座り続ける


下流の鉄橋から飛んできた水鳥が12枚の羽を撒き散らし
三十五階建の人工のオブジェの彼方に堕ちていきやがる


濁りきった水の中を覗いても 何があるのかすらわからないが
幻影のような遠景よりは明確に
リアルな世界がそこに存在することをほのめかし
さっきから僕の視界の中でクポクポと時に逆らい続ける


上流の夕陽になりかかった太陽と下流の鉄橋を行く黒い貨物列車が
何もかもが見えてしまうバカげた空間を彩ってやがる


夏草で切れた指の血が水の中に紅く広がる



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