ひとつ はなれる/木立 悟
雨と曇と雪のたましい
晴れ 無 晴れを生きては死ぬ
この痛みに痛み降れ
この痛みに痛み降れ
何も言わずに銀の語る朝
謂われなき火が窓に点る
誰も去ることを知らぬ朝
空ひとつ分だけ奥まる空
確かに聴いた無音と無言を
未だ受けとめることができずにいる
語らずにゆくひとつの清さが
ひとつの結びめをほどいてしまった
径でも川でもある径を
つぶやき流れ つぶやき流れる
ふりむくことなく発つ人の背が
銀と灰にかがやいてゆく
消えるものは消え
追うものは追う
ただやわらかく悲しいもの
残されるものへと残される
霧に生まれる光を聴き
霧をすぎる霧を聴く
鳥も 鳥ではないものも
月に到く片羽を聴く
雑踏が雑踏に手わたされ
見えないものが冷えてゆくとき
聴こえない音 垂直の音
右胸にだけ降りそそぐ
訪れては発ち 訪れては発つ
伝わり伝わらぬはざま震わせ
この痛みにこそ痛み降れ
この痛みにこそ痛み降れ
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