月と風見鶏/プル式
 
おやめなさい
月はあなたに何も教えてはくれません
おやめなさい
風見鶏はあなたに何も教えてはくれません
おやめなさい。

だから
こうして私はこうして月をながめる
だから
こうして私は空を見上げる
だからこうして。

ある赤い月夜の晩に
幼い記憶を頼りに歩く
中年の男がいた

男はその静かな夜に
自転車を漕ぎ家路を急いだ
イヤフォーンの中では男の好きな
どこかの国の男が切なげな
ピアノに合わせて歌を歌っていた

男は月を見て「赤い月だ」とつぶやき
赤い月の中で静かに流れる
どこかの国の男の歌声に耳を傾ける

男は願う
何かを

そうして月夜は静かに更けて行く

帰り道の誰かの家の上で
風見鶏がカラカラと回った。
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