土と鏡(わたしとけだもの)/木立 悟
 


ひとつのからだが
草の夜を重ね着て
水の夜に浮かんでいる
舞はとどく
舞はすぎる
喉を 胸を 腹を 脚を
声はおりる
声はのぼる



知るはずもない見知った森を
わたしとけだものは歩いていた
かつてのけだものの光の内を
かつてのわたしの言葉が響き
のびやかなひとつの川が現われたとき
喉が 胸が 腹が 脚が
少しずつ少しずつ離れていき
からみあう片方の手の指だけをそのままに
異なる足音の輪を響かせながら
わたしとけだものは歩きつづけた



背は光に
羽は鏡に
けだものは土を照らす
かがやきを
まばゆさを
わたしは幾度も梳いてゆく
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