客の来ない家/小原あき
郵便受けに入っていたのは
営業スマイルの葉書と
ネクタイをきちんと締めた葉書
営業スマイルの葉書を開いてみると
べりっという音を立てて
用のないパンフレットを差し出してきた
次から次へと決まった文句を並べ立て
私にはしゃべる隙がなかった
少し面倒くさくなってきたので
その葉書を読むのをやめた
ネクタイを締めた葉書を開いてみると
ぺりっという音を立てて
なんて書いてあるのか一読ではわからない
難しい文書を読み始めた
私のことをしゃべっているのに
その葉書はまるで私を見ない
少し悲しくなってきたので
その葉書を読むのをやめた
ふと、学生の頃の手紙
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