昼、ネギを持った男が/いとう
男の昼はネギで始まると信じているわけでもなかろうに
君は駅のホームでネギを振り回している
君が普段ネギを買えるほどの暮らしをしていないのは
君のその身なりからすぐに推察できるけれど
駅員は遠目から苦々しく観察しているだけで
決して君を排除しようとはしない
その態度が意味することはおそらく
君が金銭授受を伴う正規の手続きによって
そこにいることを許される権利を獲得したということ
今の君には自由が約束されている
ネギを振り回す自由さえ今の君は手に入れている
他人から奇異な眼差しで見詰められる自由さえ
君は享受している
薄汚れた生のネギを食べる自由さえ
手に入れようと
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