数滴の物語/木立 悟
 



左手をうしろにまわし
羽をこぼし
幸せをのがし
灯りを点ける
命のない明るさが
粉のように甲に降る


長い長い長い夢の
つづきをどこかへ置き忘れている
鉄の隙間に生えた芽が
既に花になっている
雨の次の次の日の
青はどこかよそよそしい


ほんの少しの歪みをともなう
この何もなさはどこへゆくのか
隠れて爪を切りつづける陽を
鳥のさえずりが真似ている
風が風になる前の午後
扉のむこうのまわり道


暗がりを辿る双つの羽に
異なるかたちの光が降りおり
無音をはさんでまたたいている
建物のなかを迷いつづける
淡い傍観者の夢から覚め
光のかたちだけを憶えている


手紙はある 手紙はない
手紙は常にはばたいている
望まれない隔たりの両側
まぶしさの柱に見え隠れしながら
ひもとく指を
何もない器にすべらせて
言葉を色に変えてゆく
















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