奇妙な夢の記憶/松本 卓也
電車に乗ってどこかへ行こうとしていた
何処へ向かおうとしているのかは分からない
病院だったような気がしないでもなく
山奥の施設のような気がしないでもない
見たことのある風景同士が
直線のコマ割で融合していて
ある場所では桜が咲き
すぐ隣では雪が降り積もる
血走った目をした太った女が
天井を静かに眺めていて
唾とガムで汚れた床に
僕は煙草の灰を撒き散らした
親指はまるで言う事を聞かないで
携帯電話の0だけがどうしても押せない
どこかに逃げこみたい衝動に駆られつつ
誰かに縋りたい感情を曝けつつ
何を表しているかなど
何を押さえ込んだ結果なのかなど
知る由などあろうはずもない
ただけたたましい目覚ましの音を聞きながら
俯瞰的な視点で眺めた僕の口端は
奇妙なほど安らかに歪んでいたのだけは
今でも確かに覚えている
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