羽虫/生田
黒というよりかは藍色の夜空を羽虫が通過した。深夜のコンビニエンスストアー。壁面ガラスには黒い点が、わさわさしている。ため息をつきながら、私はキンチョールの煙をその点々に振りかけていく、そうして落ちていく羽虫の名前を私は知らない。私は殺戮者ではなく、店員なのだ。客が私の名を知らないように、私も羽虫の名を知らない。
もしかしたら、いまさっきの羽虫すべては一夜の命だったかもしれない。本能とは厄介だね、と茶化す。羽虫が思考をする生き物なのか、感情を抱く生き物なのか私は知らない。おでんの什器に落ちた羽虫をおたまで掬い上げて流しへ。店内放送を止める深夜帯、排水口の先からは、あらゆる機械の呻き声が聞こえて
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