ドライフルーツ/渡 ひろこ
 
「別れる日は決めてあるんです」
あどけない顔をして
サラッと彼女は言う
離別の餞まで手に入れた
お人形のような瞳には
背景の妻子の温度は伝わらない
サーモスタットはいつ壊れるかわからないのに



いま足元に流れるタンゴが
こっそり深淵の怖さを語って
ヒタヒタと彼女の踝まで満ちてきている
大人のズルさが彼女の薄い胸に
なげかける罠





ロリポップ舐めつくした細い棒
どこに捨てるかもてあまし
ガラスの器
食べ残されたプルーン
ためらいなく突き刺して
滲む果汁を
華奢な指先ですくおうとも
すでにジューシーな果肉は啜られた
ドライフルーツがこ
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