私/結城 森士
あるとき私は、一輪のスミレだった
ひび割れたコンクリートの僅かな隙間に根を張り
強い紫色の花をリンと輝かせた
けれど陽の当たらない場所に生まれた私は
誰にも見つけられることなく
静かに枯れていった
あるとき私は、一匹の野良犬だった
人の来ない埋立地を根城に
自由気ままに生きてきたが
大勢の人間がやってきて
毒の餌でもって私を殺した
あるとき私は、一羽のカラスだった
仲間と共にゴミ集積所に出回っては
食い物を漁っていた
ある日大きなの鉄のトラックが
凄いスピードで私を踏み潰して
去っていった
あるとき私は、養殖場のエビだった
生まれたときから何不自由なく育てられ
決まりきったことのように陸にあげられ
そして決まりきったことのように殺された
あるとき私は、ネオン街の客引きだった
高校に行くことが出来ず
人に愛されたことも無く
いつか親孝行をすると言いながら
10年が過ぎた
遂に病弱の母親は
私の仕事を知らないまま死んだ
あるとき私は
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