1ピクセルの境界/プル式
 
寂しい日には鏡の前でうずくまる
そこには彼が必ずいるから

やあ
僕は手をあげる
彼は黙ったまま手をあげる
彼は何も語らない
ただ
僕の言葉をぱくぱくと飲み込む
彼の糧は僕の言葉なのかも知れない

代償に僕のつぶやきに付き合わなければならない
辛くはないだろうか
退屈はしないだろうかと
たまにおどけて見せると
彼もおどけながら僕の言葉を飲み込む
ただ
そんな日の彼は態度とはうらはらに
辛そうな目をしている

ある日
ぱくぱくと彼の真似をしたらば
初めて彼が僕に語りかけてきた
会社の話や友人とも呼べない友人の話や
別れた彼女の話
電車で見かけた人の話
他愛のない話
気が付くと何だか胸がいっぱいだった
彼が部屋の電気を消したので
僕も寝る事にした
部屋の明かりはいつの間にか消えていた。
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