潰れた酒屋の勝手口をノックしているハスキー・ボイスの若い女/ホロウ・シカエルボク
 
「もう、帰らなくちゃ」と俺は言った
女はこちらを見ずに頷いた
誤解して欲しくないんだけど、と俺は前置きして、宿はあるのかと彼女に尋ねた
ないけど、と女は微笑みながら――それはとうてい笑ってるようには見えなかったけれど
「昔、鍵を置いてた場所を思い出したの…ためしに探してみるわ」「もし開けられなくてもなんとかする、この街にも知り合いはいるもの」
そうか、と俺は答えた
鍵が見つからなければいいのにと思いながら
女は、バイバイと左手を振った




倉庫のところに今でもぶら下がっているかもしれない陰鬱な輪っかを、あの娘が見ることがなければいいのにと、そう、思いながら
――その輪っかには運命の日の日付までは書いていないかもしれないけれど



俺は散歩の予定を少し変えることにした――15分かそこら、それくらいに――






もう一度この通りをぶらぶらと歩いてみよう










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