二番地の内田さん?デッサン/前田ふむふむ
 
て、美味しそうに、タバコを吸い込むと、遠い眼をする。そして、搾り出すように、インパール戦線の飢えのなかで、人の肉を頬張ったこと、絶望的な仲間たちの無力な戦いの話を、始める。やがて、復員してから、恐ろしい空白を埋めることができず、なんども死のうとしたこと、だから、手首には無数のリストカットの跡があると、内田さんは、重くなった口を放り出しながら、僕に近づいてきて、必ず、血の痛みをふたりで覆うのだ。でも、最後には、「昔のことだよ」と、ため息にちかい言葉を吐いて、遠い眼は、何度も海を渡る。僕は、その遠い眼を、しっかりと見つめて、決して離さなかった。内田さんは、お守り代わりに持っている、ニトログリセリンをち
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