『魚の目』/東雲 李葉
 
れど大きな泡が出たと思うと、
僕は息が出来なくなってた。
熱いもので身体を掴まれ、暴れたら尻尾を叩かれて、
目の前には美しいようで奇怪な生き物が微笑んでいて、
あとは、あとは、
あとのことは憶えていない。

この日

僕はようやく僕の生まれた意味を知った。
パパがパパでなくなってもママはずっとパパを見ていた。
僕が僕でなくなってもママはきっと僕を見てくれる。
尻尾の先まで咀嚼されながら僕は最期まで目を見開いていた。

いつかの日

この水槽には誰もいない。
外の世界にも誰もいない。
あるのは二つの目玉だけ。
彼か彼女の目玉だけ。


僕が僕でなくなっても目玉はずっと僕を見ていた。
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