胸の上で、/rabbitfighter
 
。でもきっと、少し、少しかなしい、

昨日の夜は、そこに猫がいた。胸の間の少し窪んだところに座って窓の外を見ていた。夜の匂いをかぎながら彼女は、じっとして黙ったまま、動こうとはしなかった。小さな声で名前を呼んでみる。小さく、尻尾の先をくねらせる。頭からお尻までの、黒くてやわらかい稜線を何度も指先で往復しながら、他の誰にも聞こえないような声で話しかけた。何を話したのかは、誰にも言わない秘密にしたい。もちろん彼女も、誰にも言わないだろう。不意に彼女はお尻をあげ、僕の胸の上で伸びをする。丸くなってそのまま眠る。何度か寝返りをうって、僕に、顔を向けたり、お尻を向けたりしながら。その小さなかなしい生き物は、今僕の上にいる女よりも少しだけ重たい。それは多分、僕の胸の、一番柔らかい場所で寝ているからだろう。
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