水の空席/望月 ゆき
わたしの棲む場所を流れる川に
水はない
誰かが
橋の上から捨てた言葉を
灰色のさかながついばんでいる
*
夏の暑い日、わたしは
忘れてしまいたい過去の過ちと
使い古した武器を
生き埋めにした
すべてを忘れても
水やりだけ、忘れなかった
*
空を歌ってはいけない
鳥が、涸れてしまう
遠い故郷の川はやさしく潤い
耳をすますと、水は
恥ずかしそうに書物に隠れる
*
わたしの内側に水が流れていて
世界はわたしのそとに存在している
足もとに、見えない花が咲いて
触れられないまま散って、
やがてそれは明日になる
*
待ち合わせした約束の場所は
まだ白紙のままで
名前もない
川面に浮かぶ言葉の切れ端を見つけて
忘れ物をしたように泣いた
すべてをいっぺんに思いだすために
どこまでも、水は不在だった
(ポエニーク 即興ゴルコンダ投稿)
戻る 編 削 Point(49)