影にも埋もれず/田川修作
 

街の中で 蟻は六本の足を檻のようにして

逃げて行くものを なんとかその小さな爪で捕まえようとした

消える意識の中で 彼は初めて仰向けになった

そこに広がっていたのは

いつも彼の背中に焼きつき

離れなかったものの正体

蟻は自分を殺したのが誰かを確信する

黒い顔を土につけて

裏側から伝わってくる鼓動に耳をすませながら

蟻は眼も閉じず 死んでいく

知らなかった 蟻は知らなかった

耳元の鼓動がなんのリズムももたないことも

誰が殺したということも

空の青さのひとかけらも
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