五月(さつき)/小原あき
雨の中に鯉のぼりがいて
彼らは空を飛ぶことしか知らない
だけど、濡れた体を揺らしてみると
遠い昔を思い出したみたいだった
青い空を飛ぶよりも
うんとなめらかに飛んでいた
***
水を張った田んぼが
ぴんと背筋を伸ばして鏡になる
それを空たちが代わりばんこに覗き込み
身だしなみを整えている
綺麗になったと呼ぶから
思わず五月の空を見上げてしまう
***
被っていた帽子が
突然、鳥になって飛んでいった
鳥のなり方を知らない私は
飛行機に乗って旅をしようと考えた
鯉のぼりよりも高く飛んだ帽子よりも
うんと高い雲の上を旅しよう
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