待合室のひと/恋月 ぴの
長い間待ち望んでいた瞬間が訪れる
受付の看護士さんに案内され
病院らしい匂いのする待合室の長椅子に
わたしはひとりで腰掛けていた
手術自体はあっと言う間ですから
こころにメスを入れるなんてと
狼狽えるわたしに向かって
若い担当医は自信満々な口振りで答えた
わたしにも思春期があったとして
その頃からだったのか
わたしを捕らえて離さなかったもの
片時もその存在を忘れることの出来なかったものから
わたしはついに解き放たれようとしている
いよいよだからね
ちょっと汗ばんだ掌を見つめていると
わたしの名を呼ぶ声がして
手術室の扉が開き
白いベッドが眩しさ
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