移り香/フクスケ
 
古い畳の上の
小さな端切れを見ていると
きものをきるのと同じくらい
楽しくなる
五月の空の下を
どこからか 不意に
クチナシの香り
五月の風を感じながら
香りの行方を
探したくなる
記憶の中の
きものの移り香が
端切れのほつれから
徐々によみがえる
柔らかな日溜まりの感触
かつてあった誰かの体温
かつて聴こえたきぬずれの音
そして 記憶の移り香

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