笑人(わらうど)/木屋 亞万
 
彼は笑っていた
唇が裂けるくらい口を開けて
顔全体から声を飛ばすように
笑っている
誰もいない砂浜
荒れる海に向かって
笑っていた


空が崩れ落ちる程に声を荒げながら
腹を抱え目を見開いて
砂浜を何度も踏み締めながら
彼は笑っていた
海は平然と海であった
滑稽でもなく無様でもなく
浜風が吹き砂浜が広がる
誠に平均的な海だった
そこで彼は笑っていた


舌でなく喉でなく
腹でもない彼は彼自身
彼の核とでもいうべき
生命の根源から笑っていた
何がそんなに可笑しいのか
あるいは何か悲しいのか
はたまた怒りか悔しさか
何が彼を笑わせるのか
何かを笑
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