藤棚/かのこ
自転車で坂道を駆け下りて
夕暮れ前の公園を抜けていく
誰もいない遊園、鉄のにおい
藤の花がぱらぱらと
わたしの背後で落ちていった
同じかたちの宇宙が隣町にもあって
昔はよく友達に会いに飛んで行った
夕闇が降りてきたら景色は変わるよ
風が吹けば、花が散れば
春は夏の顔を見せはじめる
曲がり角を曲がれば
またステージは変わる
軽くステップを踏んで
気がつけば大人になっている
いつかあの木陰で休んでいた親子
母は枯れていき、子は咲き始める
春が巡れば、わたしは手を伸ばす
ベンチの上の、かすかな藤の色
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