裸、あまりに裸/佐々宝砂
 
あたしはエステに通った、
あたしは美容整形をした、
たぶん美しくなった、
あなたにわかる?

あたしはアルマーニの香水と、
ブルガリの時計と、
プラダのリュックと、
エルメスのピアスと、
フェラガモのポーチを手に入れた、
ねえ、わかる?

それなのにあたしは、男たちを、
さみしい目をした男たちを愛せなかった、
あなたにわかる?

あたしは涙を愛せなかった、
オタクを、失業者を、
マニアを、ストーカーを、愛せなかった、
裸になってお風呂に入ろう、
一日の汚れをすべて落とそう、
わかる?

あたしの身体はあたしのものではない、
まして他の誰かのものでもない、
でもあたしはあたしの裸をみがく、
わかる?

あたしはあたしの裸をみがく、
男よ、世のすべての男たちよ、
ねえ、あなたにわかる?


   (原典はアンドレ・スピール「人間、あまりに人間」、堀口大學訳)
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