ふるさと/沢村 俊輔
毎日が戦場で
しっかりと目を開いて
現実ばかり見ていると
ひとみが乾燥して疲れてしまう
だから そのたびに
まばたきをしてみるのだけれど
そんなとき一瞬
電車の車窓を見ているようで
何かが通過していった
それは誰もいない校庭でさ迷う
卒業という言葉
それは古い写真に焼きつけられたまま
じっと、こちらを見ている人たち
それは三年前の手帳に書いた
あなたの誕生日と名前
ときどき現われては消える
そんなものたちなのだろうか
乾いた戦場には
乾いた言葉しかない
子供の頃
野山を駆け回って
蝶を追いかけたり
花を摘んだりした時間も
すっかり干からびてしまっている
夜、布団のなかで
ゆっくり、まぶたを閉じてみると
まぶたの下にはふるさとがいて
ぼくの疲れたひとみは
涙で渇きを癒している
戻る 編 削 Point(5)