ノート(夜とかわき)/木立 悟
 


料理 塗料 におい
あとずさり あとずさり
ただ目に入るだけの曇
はじまりそうで終わる夕暮れ
水たまりも風もないまわり路


低いざわめきのあつまりが
ざわめき以外を持ち上げる
蒼と灰と鈍の足音
耳のうしろを
こそばゆくすぎる


灯火の光がはがれ落ち
土に平行に線を引く
線は何かが動くたびに鳴り
路は分かれ
山へ消える


白い服だから冷えるわけではない
言葉がひとつずつ去るのでもない
ときおりうなじに居る色が落ち
木の細工を
少しまた少しと揺らす


火に火をくべて
火は消える
あたりはあたりのままに踏み出し
闇の前の
線を鳴らす


いつのまにか器は満ちて
緑の水に
緑の刃が沈んでいて
呑み干すものの喉を映し
持ち去られ また沈められてゆく












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