それにそれはあっという間に思い出したというだけのものになってしまう/ホロウ・シカエルボク
 
なしにしてしまう、ミルクパンに残った湯はカップの半分にも満たなかった、やり直しだ
ミルクパンの中で弾ける沸騰した僅かな湯は何故だかまるで軽薄に思える
記憶を見ていた、パンを食べながら…
記憶を見ていた、コーヒーの湯気の向こうに
俺であってもう俺でない俺が
やはり俺であってもう俺でない俺の成り立ちを
それが記憶だと言われても遠すぎて釈然としない、思い出すのに適さない時間というものが必ずある、なにもかもはっきりと思い浮かぶのに――生身に返ってくる感覚が何もない、それを進化と呼ぶか成長と呼ぶか、はたまた退化と呼ぶかは気分によって違うところだけど――


たとえば明日は雨になるらしいから、俺はこれを多少疎ましく感じるんだろうね

パンの味は確かだった、だけど





記憶とはそれはまったくひとかけらも

リンクせずに
胃袋に収まったのだ



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