疲れた羽根/伊那 果
 
 今ごろあなたは
 大都会のビルの合間を縫って
 薄汚れた地下鉄の階段を
 降りていくころだろうか
 新しいジャケットに身を包み
 ほおに少し疲れたしわを漂わせて

  一昨日 真昼のベッドで
  あなたの肌はねばっこい汗にまみれていた
  暗い鬱の穴に閉じこもりながら
  何度も何度も私の名前を呼んだ
  私の届かない世界から

 あなたの目の下に刻まれた
 幾筋もの優しいしわが
 また今日も一本増える
 
 なぜあなたは疲れていくのだろう
 
 全力で抱きしめても
   あなたの心はそのずっとずっと奥の迷路で
 そのたびにきしむ音が
 その小さな音が
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