素描/もも うさぎ
信があるのだ、と言って
彼が持ってきたスケッチブックを手に
私は今 困惑している
彼の目はいたずらを覚えた天使のように
年齢に合わない くるくるとした輝きを帯びて
失礼ですが これは楽譜では?
と 問いかける私の声は
静けさの森の奥に吸い込まれていくのだった
彼は しい、と 口元に一本指を立て
耳を澄ませと仕草する
白黒の鍵盤から 音がほろほろとこぼれる
羽ばたき、あるときはけたたましく鳴き、
印象派の空へとのぼる その小さな体が去ると
また森は 静寂の中に
ああ
幼き日の私が取り残されている
〜素描〜
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