砂浜/阿川守基
はずの頭蓋骨であるからたとえ
波と風は
(動いてやまないものは)
つねに物質を笑うとしても
傲然と濡らせているのだ
超然と吹かせているのだ
蟹よ
この砂浜で唯一の生き物よ
あの国道を一台の自動車も来ないというのは
わかりきったことなのだ
国道は永久に封鎖された
朝と夜の境界で
死と生の境界で
だからここではずっと真昼が続くのだ
その時
波が頭蓋骨をのみこんだ
波がひくと砕けた頭蓋骨から
蟹が這い出た
風がレジ袋を吹き上げた
それは高く揚がった
砕けた頭蓋骨も流木も空き缶も
みるみる小さくなった
海は膨らみ水平線は遠ざかった
かさかさ音をたてて揚がっていった
遠くの、白く乾ききった住宅街を
自転車がひとつ光りながら走っていった
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