もへじなひと/恋月 ぴの
へのへのもへじみたいだねと問いかけたら
「へへののもへじ」が正しいんだと
あのひとは言った
―へのへの
叱られて家に帰れなかった
夕焼け空に
ロウセキで描いた
へのへのもへじ
けんけんぱの輪を追憶の黒い影くぐり抜け
とうりゃんせの歌声が
わたしの背中を呼んでいた
―へへのの
困ったような「へ」の字のまゆげ
それでも「へへのの」にこめられた頑なな思いは
まるで道化の素顔を垣間見たようで
しれっとした眼差しに
愛だけでは幸せになれぬと「へ」の字くち
へのへのもへのとも言うらしいけど
「通り抜けできません」と標された
人生の袋小路で捨て猫一匹みゃぁあと鳴いて
おままごとしていた、あの頃がよぎる
それは空っぽの部屋に
空っぽのふたり
お互いを傷つけ合うことでしか満たされ得なかった
忘れようとして忘れることのできない日々
へのへのもへじのげじげじまゆげ
カンけりのカン思いっきり蹴られても
わたしは案山子と素知らぬ顔で
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