Emの視界/ムラコシゴウ
 

Emは後ろに座り込んで、新しく買ってきた消しゴムの角を使おうか使うまいか

ためらっている。


Emは久しぶりに街に出て、輪郭のぼやけた春の生温い空気に少しだけ辟易する。
エッジの効いた冬が懐かしい
というEmの見解は、
どうやら一般にはあまり受け入れられないらしい。


子どもがペットボトルを放さない。
母親はベビーカーを転がし、遠回りするのが都市の構造だ。
Emは子どもをあやそうとするが、
子どもは鼻の頭に埃をつけたまま、Emの情念を貫いている。


ヴァニティ・フェアー。
Emを求める人は、いない。


緩い風に吹き
[次のページ]
戻る   Point(4)