はじまりの四月、成就された八月。 ☆/atsuchan69
 
 一

真夏の昼下がり。
海へと向かう埠頭をめざして
ただ、闇雲に走るのは
未知のウイルスに侵された
一匹の狂犬。

ザー、ザーと耳の奥で
鳴りつづける不気味な雑音。
熱を帯びた鼻と舌の渇きと
脈打つ胸の鼓動とともに痛む、
夢でない世界のざわめき

――八月のいつか。
すでに溶けはじめた日、
アスファルトの直線に並ぶ
病的かつ人為的で規則正しい、
ざらつく肌の不快な記憶。

古い煉瓦造りの建物は
ひどく曖昧な輪郭と、
深みのある影を残して
人々の営みを、まだ残したまま

一塊の夏が
陽炎とともに消えた



 二

あれは滅びの光、
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